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2026.10.02

「歩行ガイド心リハ」手引書を公開 ー CPXが使えない高齢・フレイル患者をどう評価するか【日本心臓リハビリテーション学会】



日本心臓リハビリテーション学会は、「歩行ガイド心臓リハビリテーションハンドブック ー 地域医療とフレイル高齢者のこれからを支える手引書」を公開しました。

全87ページ、同学会の「地域医療のための心臓リハビリテーションワーキンググループ」により作成されました。

同ハンドブックでは、心肺運動負荷試験(CPX)に基づく運動処方が困難な高齢・フレイル心疾患患者に対し、歩行能力を評価とガイドの指標として運動療法を進めるという実践モデルが提示されています。

回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟で心疾患患者を担当する機会が増えている専門職にとって、参照しやすい内容です。


「CPXができない患者」が増えている

心臓リハビリテーションは、CPXに基づく運動療法を中心に発展してきました。ハンドブックによれば、その主な対象は心疾患のみをもつ比較的安定した壮年期から前期高齢者でした。

しかし、急速な高齢化、多疾患併存、生活機能低下、社会的背景の複雑化により、従来のアプローチでは対応しきれない症例が増えているとされます。それにより、ゴール設定や治療方針が立てづらいといった課題がありました。

それでも患者は日常生活へ復帰する必要があり、在宅や施設への退院を目指したリハビリテーションが求められます。

こうした実践は循環器専門施設に限らず、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟など多様な現場で担われている、という現状がハンドブックでは示されています。

一方で、回復期リハビリテーション病棟の多くは心リハの施設基準や人員配置を満たしておらず、便宜的に「廃用症候群」として算定されるリハも散見されると指摘されています。


「歩行ガイド心臓リハビリテーション」とは何か

ハンドブックは、歩行ガイド心臓リハビリテーションを次のように定義しています。

主に高齢、フレイル、併存疾患などを背景に身体機能が低下した心疾患患者を対象とし、運動耐容能の改善に加えて、ADL、生活範囲、介護負担などの生活機能上の目標を重視しながら、歩行能力を評価およびガイド指標として運動療法を実施する、心リハの実践的アプローチの一形態である。


重要なのは、CPXに基づく心リハの代替ではないと明記されている点です。

患者の状態や達成すべき目標に応じて、連続的かつ相補的に位置づけられるとされています。



誤解されやすい点として、ここでいう「歩行」とは、歩行訓練そのものを主体とするものではないことに留意するよう記載されています。

ハンドブック内で「歩行」は、運動耐容能と生活機能を統合的に反映し、リハチーム、患者・家族、介護スタッフの間で評価や目標設定を直感的に共有できる指標として位置づけられています。

介入内容は、歩行訓練に加えてレジスタンストレーニング、バランストレーニング、起立・移乗動作練習などの多要素の運動が基本です。医学的管理、リスク因子是正、患者教育・カウンセリングを含む多職種による包括的介入という点も、従来の心臓リハビリテーションと変わりません。


【歩行ステータス】生活機能を4段階に層別化

評価の中核となるのが「歩行ステータス」です。生活機能と運動持久力を4段階に層別化し、期待されるアウトカムと対応させています。

ハンドブックは、ステータスB・Cでも生命予後の改善は期待でき、その効果を限定的とみなさないことが重要だと示しています。




【訓練ステップ】回復過程を4段階に整理

歩行ステータスとは別に、リハビリテーションの経時的プロセスとして「訓練ステップ」が示されています。

歩行ステータスが生活機能の層別指標であるのに対し、訓練ステップはリハの経時的プロセスを示すものです。同じステータスでも患者によって異なるステップに位置する場合がある、と説明されています。

なお実践のワークフローは、事前評価、初回評価、プロトコール策定、実施、再評価、漸増・改訂の6段階で構成されます。

事前評価では、標準的な心リハと比べて栄養状態・摂食嚥下機能、せん妄リスク、活動意欲の確認が特に強調されている点が特徴です。




運動負荷の設定、プロトコールは「あえて示さない」

注目されるのが、運動プロトコルの扱いです。

ハンドブックは、確定的なエビデンスがないため、本書ではプロトコルをあえて示さないという方針を明記しています。代わりに、REHAB-HF試験で用いられたマルチドメイン介入のプロトコルを付録として掲載し、歩行ステータス・訓練ステップとの対応関係を解説する形をとっています。

負荷設定についても、一般に運動強度の評価にはBorgスケールなどの自覚的運動強度が用いられますが、「高齢患者では個人差が大きく、自覚強度が過小評価される場合もある」と記載されています。

そのため、自覚的運動強度のみで判断することは適切ではなく、心拍数や血圧の変化、症候の出現、運動後から翌日にかけての疲労の回復状況を総合的に評価すべきだと述べられています。

プログラムの進行にあたっては、まず運動時間や回数の増加を優先し、その後に強度を調整するという順序が基本とされました。


残された課題 「終える」ことも選択肢として

第3章では、標準化とエビデンス構築、倫理的意思決定と終末期支援、医療・介護制度および地域連携という3つの観点から今後の課題が整理されています。

なかでも印象的なのが、運動療法の「終わり」に関する記述です。

ADLが低下した高齢患者の心臓リハビリテーションでは、回復の限界と意味を見極める姿勢が求められるとしたうえで、次のように述べられています。

本人の望む暮らしを実現するためには、運動療法を「続ける」ことだけでなく、ときに「終える」ことも選択肢として尊重されなければならない。


ACPを通じて本人の価値観と照らし合わせながら支援を続ける過程で、歩行ガイド心臓リハビリテーションの終点が見いだせる、という考えです。


回復期・地域包括ケア病棟で働く専門職へ

このハンドブックは、循環器専門施設に限らず、心臓リハビリテーションの施設基準を満たさない病棟で心疾患患者を担当している専門職に向けられた内容ともいえます。

CPXという専門的な検査がなくても、歩行能力という共通言語を使って評価・目標設定・チーム共有ができる。その枠組みを本ハンドブックは示しています。

ハンドブックでは、「対象読者と紙面構成をふまえ、急性期から回復期(包括期)における心臓リハビリテーション実践を中心に扱う方針とされており、介護保険サービスや在宅医療との具体的な接続については詳細な記載を行っていない」と断り書きがあります。この点については、今後の改訂で検討されるべきテーマとされています。


引用・参考
◼️ 歩行ガイド心臓リハビリテーションハンドブック ー 地域医療とフレイル高齢者のこれからを支える手引書. 2026(日本心臓リハビリテーション学会)
◼️ Kitzman DW, Whellan DJ, Duncan P, et al. Physical rehabilitation for older patients hospitalized for heart failure. N Engl J Med. 2021;385(3):203-216. doi: 10.1056/NEJMoa2026141
◼️ Tonet E, Raisi A, Zagnoni S, et al. Multidomain Rehabilitation for Older Patients with Myocardial Infarction. N Engl J Med. 2025;393(10):973-982. doi:10.1056/NEJMoa2502799

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